
【概要】
運送配達業務委託契約は、荷主企業(委託者)が、物流業者(受託者)に対して運送業務を委託する契約です。
輸送を委託業務の内容とする業務委託契約に適用される規定は、商法のほか、輸送方法等に応じて鉄道事業法、鉄道営業法、道路交通法、道路運送法、貨物自動車運送事業法、貨物利用運送事業法、海上運送法、航空法など、多数の特別法があります。また、海上運送や航空運送は、複数の国をまたいで行われる場合も多く、国際民間航空条約など多数の条約も存在します。
普通トラックを使用して行う運送業を例にとると、貨物自動車運送事業法上、当該運送業は一般貨物自動車運送事業と定義され、一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならないことになっています(貨物自動車運送事業法2条2項、10条1項)。ただし、実際には、各事業者が個別の運送約款を定めているのではなく、国土交通大臣が定めて公示する「標準貨物自動車運送約款」(以下「標準約款」といいます。)を運送約款として使用することが通例です(この場合に同法10条1項の認可を受けたものとみなされる点につき、同法10条3項)。
もっとも、標準約款は最低限の規定を置くに過ぎないため、標準約款に補充的な内容を加えた運送配達業務委託契約書が必要となります。
なお、運送配達業務の委託・再委託にあたっては、下請代金支払遅延等防止法や独占禁止法に基づく「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」等が適用されるおそれがありますので、契約条件の決定、契約書の作成及び運用の際には、これらの点を考慮することが重要です。
✔ 目次
1. 委託業務
2. 運送方法
3. 各書面の交付
4. 運送車両
5. 運転手
6. 運送中の事故
7. 保証
8. 付保
9. 費用負担
10. 再委託
11. 優先関係
1. 委託業務
運送配達業務委託契約は、受託者(運送人)が荷送人から目的物を受け取り、これを運送して荷受人に引き渡すことを約し、荷送人がその結果に対して対価を支払うことを約することによって成立する(商法570条)、一種の請負契約(民法632条)であると解されています。
「仕事」である運送配達業務の具体的内容をめぐって当事者間で認識の相違が生じることを防ぐため、どのような業務を委託するのか、可能な限り具体的に定めておく必要があります。
2. 運送方法
委託者は、適切な業務遂行が期待できる運送業者を選定するだけでなく、運送を委託する商品の特性等や配送時の事故・遅延リスク等を踏まえ、必要に応じて、契約書内に具体的な配送方法等を定めておくことが重要です。
他方、受託者としては委託者以外にも多くの顧客を抱えていることが通常であり、各顧客の要望への個別対応は実務上負担になることから、最低限の内容としておくことが考えられます。
3. 各書面の交付
本条は、委託者が目的物の運送を実際に委託する時点から、受託者が運送を完了するまでにおける各種書面の交付義務を定めるものです。
運送状(送り状)とは、一般的には、目的物とともにその到達地に送付され、荷受人が目的物の同一性を検査し、また、着払運賃などその負担する義務の範囲を知るために利用される文書をいいます。商法上、委託者は、受託者の請求があった場合に、所定の項目を記載した運送状を交付しなければならないとされております(商法571条)が、国土交通省「トラック運送業における書面化推進ガイドライン」においては、請求のいかんにかかわらず、運送状を交付することとされており、本運送配達業務委託契約においても、その旨を定めています。運送状を受領した受託者は、当該運送状の内容に基づく運送引受状を委託者に交付することが一般的です。また、運送が完了した場合、荷受人は運送状と目的物を確認し、問題がなければ受託者を通じて、委託者に受領書を交付します。こうした一連の各書面の交付が適切に行われることにより、契約当事者において、契約上の義務が明確になり、また、契約上の義務の履行が適切になされたかを確認することができます。
4. 運送車両
委託者としては、運送車両の整備不良等により委託業務が適切に履行されない状況を防ぐことができるよう、また、実際に適切に履行されなかった場合の契約書上の根拠となるよう、定期的な車両整備及び安全点検を行う義務を受託者に課しておくことが重要です。
5. 運転手
上記の運送車両の定期点検等にとどまらず、未然に事故を防止し、目的物が確実に目的地に配送されるためには、実際に目的物を配送する運転手に一定の要件を設けておくことが委託者にとっては重要です。
6. 運送中の事故
受託者の従業員が目的物を運送中、交通事故等に巻き込まれ(又は交通事故等を惹起し)、目的物の破損や滅失が生じた等の理由により委託者又は第三者に損害が生じた場合、その損害をどちらが負担するか定めておくことが重要です。委託者においては、受託者の責めに帰すべき事由による場合に限らず、第三者の責めに帰すべき事由による場合も、受託者に損害賠償責任を負わせておくことが有利ですが、受託者においては、自己の責めに帰すべき事由に基づく場合を除き、運送中の事故については責任を負わない旨を定めておくことが有利です。
7. 保証
本条は、受託者に対して、委託業務に必要な許認可を取得していることを保証させる条項です。例えば、一般貨物自動車運送事業を経営しようとする者は、国土交通大臣の許可を受けなければなりません(貨物自動車運送事業法3条)。受託者が、委託業務を行うために必要な各種登録、許認可(以下「許認可等」といいます。)を取得していなかった場合、契約締結後に委託業務の遂行が不可能となったり、業務の遂行に支障をきたしたりするリスクが高まります。また、必要な許認可等が得られているか、委託者において漏れなく適切に確認することが難しい場合もあります。
委託者としては、契約書において、受託者に対し、委託業務に必要な許認可等の取得を保証させることで、上記のリスクに対応することが重要です。
8. 付保
委託業務の履行中、目的物の破損、滅失又は盗難が発生し、損害が発生した場合に備えて、損害賠償保険について定める必要があります。
損害保険会社によって、損害保険の補償内容や保険料は様々であるところ、委託者としては、受託者に、受託者の負担で委託者が適切と認めた損害賠償保険に加入してもらえるよう「受託者は、委託者が認める適切な損害賠償保険を自己の負担にて付する」と定めるのが有利です。
他方で、受託者としては、委託者の負担で、委託者に損害賠償保険に加入してもらえるよう「委託者は、損賠賠償保険を自己の負担にて付する」と定めるのが有利です。
9. 費用負担
運送業務委託契約が請負契約の性質を有することを前提とすると、委託業務を履行するために必要な費用は、原則として受託者が負担することになります。もっとも、当事者の合意により委託者の負担とすることもできますので、当事者の認識を明らかにしておくべく、契約の締結・履行に関連して発生する費用の負担ルールを定めておくことが重要です。
10. 再委託
運送業務委託契約が請負契約の性質を有することを前提とすると、原則として受託者は、委託業務を自由に再委託することができると考えられます。もっとも、委託者としては、受託者が委託業務を自由に再委託できることとした場合、委託業務の適切な履行が期待できない再委託先に再委託がなされ、履行遅滞等による不利益を受ける恐れがあります。これを防ぐために、受託者が委託業務を再委託する際には、委託者の事前の承諾を得させるともに、再委託先に対して本契約上の受託者の義務と同等の義務を負わせておくことが有利です。
11. 優先関係
【概要】で述べたとおり、一般貨物自動車運送事業者は、運送約款を定め、国土交通大臣の認可を受けなければならない(貨物自動車運送事業法10条1項)とされているところ、当該運送約款についても、委託者及び受託者間の契約として法的拘束力を有することを明らかにするとともに、本運送業務委託契約との優先関係を明らかにしておくことが必要です。
以上
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