
【概要】
販売代理店契約は、ある商品の製造元やサービスの提供者などである販売者が、代理店に対し、商品(サービスを含みます。)を販売することの代理権を与え、代理店が、販売者の代理人として商品を顧客に販売する場合に締結します。
販売代理店契約では、代理店は、あくまで販売者の代理人として商品を販売するため、販売者と顧客との間にのみ売買契約が成立し、在庫を抱えるリスクも販売者が負います。
ここでは、販売代理店契約を締結する場合に、販売者と代理店双方の立場から契約書に定めるべきポイントを解説します。
✔ 目次
- 代理権の付与
- 販売代理の方法
- 報告
- 販売代金の受領
- 販売手数料
- 販売代金・販売手数料等の精算方法
- 販売努力義務
- 資料の提供
- 保証金
- 競合品の取扱い
- 商標の使用許諾
1. 代理権の付与
⑴ 代理権の付与
販売代理店契約の成否をめぐってトラブルにならないように、代理店が代理権を有することを明確にするため、「販売者が、代理店に代理権を付与する」ことを規定します。
⑵ 代理権の範囲
代理権の内容をめぐって販売者と代理店との間で認識の相違が生じることを防ぐため、代理権の範囲を明確にしておく必要があります。
具体的には、「顧客との間で売買契約を締結すること」と「販売代金を顧客に請求し、受領すること」を定めることが多いです。
⑶ 独占的代理権と非独占的代理権の別
代理権の内容をめぐって争いになることを防ぐため、販売者が代理店に対して、独占的代理権を付与するのか、非独占的代理権を付与するのかを明確に定める必要があります。
独占的代理権を付与すると、契約当事者たる代理店のみが、販売者の代理人として、本商品を販売することができます。一方で、非独占的代理権を付与した場合には、販売者は、第三者に対しても本商品を販売する代理権を付与することができます。
なお、独占的代理権を付与した場合であっても、販売者自身が他の代理店を介すことなく、商品を販売することが禁止されるのかが明確ではありません。
そのため、販売者が直接販売することを禁止する場合には、「販売者は、本契約の有効期間中、代理店の事前の承諾なくして本商品を自ら販売してはならない」と明確に定めておくことが考えられます。
2. 販売代理の方法
⑴ 販売代理の方法
代理店が、販売者の代理人として、顧客に商品を販売する方法について定める規定です。
なお、代理店が顧客に商品を販売する際に、販売者の代理人であることを明示しなかった場合、代理店と顧客との間に売買契約が成立する可能性があります(民法100条)。
これを避けるため、「代理店は、販売者の代理人であることを明示して、本商品の販売を行う」と規定しています。
⑵ 販売者の指示に従う義務
顧客との売買契約において、代理店はあくまで代理人であり、売主は販売者となります。
そのため、販売者としては、代理店に販売者の指示に従って商品を販売してもらえるよう、「販売者から販売方法等について指示があった場合には、当該指示を遵守する」と定めておくことが考えられます。
他方で、代理店としては、販売者から実際に従うことが難しい指示をされるおそれがあります。そのため、このような定めは削除するか、削除が難しい場合には「指示を遵守することが可能な場合に限って、当該指示を遵守する」と修正することが考えられます。
⑶ 顧客の資力を確認する義務
販売者としては、代理店が資力のない顧客に商品を販売してしまうと、顧客から本商品の代金を回収できないおそれがあります。そこで、販売者有利の契約では、「代理店は、クライアントに十分な資力があることを確認する」と定め、代理店がクライアントの資力を確認することを義務付けています。
他方で、代理店としては、販売の度に顧客の資力を確認しなければならない、とすると負担が大きいです。そのため、顧客の資力を確認することが難しい場合には、このような義務の削除を求めることになります。
⑷ 販売代金の決定者
販売代金を販売者と代理店のどちらが決定するのかをめぐって争いになることを防ぐため、これを定めています。
販売者としては、代理店の販売代金の価格が、販売者の売上に直結するため、「販売代金の決定は、販売者が行う」と定める必要があります。
他方で、代理店としては、代理店の得る販売手数料は、販売総額を基に算定されることが多いため、販売代金は代理店の利益にも影響します。
そのため、販売代金を販売者が一方的に決定する、と定められている場合は、「販売代金の決定は販売者と代理店との協議によって行う」に修正することを求めることが考えられます。
⑸ 販売代金を変更するときの手続き
販売代金の変更をめぐってトラブルにならないように、販売代金を変更するときの手続きを定めるのが望ましいです。
販売者としては、代理店に通知すれば販売代金を変更できるよう、「販売者は、本商品の販売代金を変更する場合、変更後の販売代金を代理店に通知する」と定めると有利です。
他方で、代理店としては、販売者に一方的に販売代金を変更されると不利益となる恐れがあるため、「協議の上で販売代金を変更することができる」と定めることが考えられます。
3. 報告
⑴ 契約を締結したときの通知義務
代理店が、「代理商」(商法27条、会社法16条)に該当する場合、販売者の代理人として顧客と売買契約を締結したときは、販売者に対して遅滞なく当該売買契約の内容を通知する義務を負います(商法27条、会社法16条)。
これを確認的に定め、代理店の通知義務の内容を具体的に定めるのが一般的です。
具体的には、販売者としては、代理店による本商品の販売代金が、販売者の利益に直結し、また、販売先である顧客が誰であるかが、売買契約の売主となる販売者に影響を及ぼすため、代理店に対して、顧客の情報、販売代金、等を報告する義務を課す必要があります。
⑵ 代理店の報告義務
販売者としては、代理店の販売活動が売買契約の売主となる販売者に直接影響を及ぼすため、代理店が売買契約を締結したときに加えて、別途販売者が要求したときに、代理店が報告する義務を課すことが考えられます。
他方で、代理店としては、販売者が要求する度に、代理店が報告する義務を負うと定められている場合、代理店の負担が大きいです。そこで、このような定めがある場合は、削除するのが望ましいです。
4. 販売代金の受領
販売代金を、販売者が受領するのか、代理店が受領するのかを定めておく必要があります。
販売代理店契約では、代理店に顧客から販売代金を受領する代理権を与えることが多いです。
5. 販売手数料
販売手数料をめぐってトラブルにならないように、金額を明確に定めたり、金額の算定方法を定める必要があります。。
とくに、販売代金を代理店が受領する場合には、代理店が顧客から販売代金を受領したのちに、顧客との売買契約が解除された場合の販売手数料の取扱いについても定める必要があります。
6. 販売代金・販売手数料等の精算方
⑴ 販売代金・販売手数料の精算方法
販売代金及び販売手数料の精算方法を定める規定です。
販売代金を販売者が顧客から直接受領する場合には、販売者が代理店に対して販売手数料を支払ったことを記録するために、「販売者は、販売手数料を代理店が指定する銀行口座に振り込みにより支払う」と定め、銀行振込により支払うことが安全です。
一方で、販売代金を代理店が受領する場合には、「代理店は、販売代金を、販売手数料を控除した上で、販売者が指定する銀行口座に振り込んで支払う」と定め、販売者が受領する金額は販売手数料が控除された金額であることを明確にすることが考えられます。
また、販売代金や販売手数料を支払うときに、振込手数料などの費用が発生することが想定されます。この費用負担をめぐるトラブルを防ぐために、費用負担者を確認的に定めるのが安全です。
契約で定めなければ、民法の定めに従い、振込手数料などの「弁済の費用」は、債務者が負担します(民法485条)。
そのため、代理店が、販売者に対して、販売代金を支払う際の振込手数料を「販売者が負担する」とする場合や、販売者が、代理店に対して、販売手数料を支払う際の振込手数料を「代理店が負担する」とする場合など、債務者の負担としないときは、必ずその旨を定める必要があります。
⑵ 販売費用の負担者
販売費用を、どちらが負担するかをめぐるトラブルを防ぐために、発生することが想定される費用について、「いずれの当事者が、費用を負担するか」を定めておくことが多いです。
民法では、委任契約の受任者は、事務処理の費用を支出したときは、委任者から支払いがあるまでの利息を、費用とあわせて請求できます(民法656条、650条1項)。
代理店としては、販売費用を販売者に負担してもらえるように、「販売費用は、販売者が負担する」と定めるのが望ましいです。
7. 販売努力義務
⑴ 販売努力義務
代理店は、販売者の代理人として、本商品を販売する立場であることから、販売者としては、代理人に販売数量を拡大するための努力義務を課す必要があります。単なる販売数量を拡大するための努力義務という規定では、努力義務の内容が曖昧で、努力義務違反を認定することが難しいので、具体的に、「代理店は、販売者が定めた販売目標の達成のために努力する」と定めるのが望ましいです。
なお、代理店に独占的代理権を付与する場合には、第三者を代理店として本商品を販売することができないことから、努力義務を課す必要性が特に高いです。代理店が販売目標を達成できなかった場合は、別の代理店に代理権を付与して、販売数量の拡大を目指すことができるよう、「代理店が、年間販売目標を達成することができないことが明らかになった場合は、販売者は、代理店の独占的代理店としての地位を喪失させることができる」と定めることが考えられます。
他方で、代理店としては、販売者によって、一方的に販売目標を決定されると、実現が困難な販売目標を決定されるおそれがあるため、このような定めがある場合は削除するか、削除が難しい場合には、「代理店は、当事者協議の上で定めた年間販売目標の達成のために努力する」と修正すると安全です。
⑵ 販売目標の改定
代理店の販売目標は、「年間販売目標」として定めることが多いですが、年間販売目標は、その年の販売者の経営状況・業界の情勢などを反映して決定されるため、改定する必要があります。
販売者としては、販売者の意思で年間販売目標を改定できるよう、「販売者は、年間販売目標を改定できる」と定めることが考えられます。
他方で、代理店としては、販売者によって、一方的に販売目標を決定されると、実現が困難な販売目標を決定されるおそれがあるため、「販売者及び代理店は、協議の上、年間販売目標を改定する」と定めることで、販売目標の確定に代理店の考えも取り入れることができるようになります。
8. 資料の提供
⑴ 販売資料の提供義務
代理店が販売代理を行うにあたっては、本商品のパンフレット、商品説明書などの販売資料が必要となります。そこで、「販売者は、代理店に対し、代理店が販売代理を行うにあたり必要となる、本商品の販売資料、本商品のパンフレット、商品説明書その他の販売促進物を提供する」と定める必要があります。
⑵ 販売資料の複製又は改変
販売者としては、自らの営業秘密などの重要な情報が漏えいすることがないように、「代理店は、事前に販売者の書面による承諾を得ない限り、販売者から提供された販売促進物を複製又は改変してはならない」と定めるのが安全です。
他方で、代理店としては、販売者から渡された資料を複製又は改変しなければ業務遂行できない場合は、「代理店は、本商品の販売にあたって必要な場合、販売者から提供された販売促進物を複製又は改変できる」と定める必要があります。
9. 保証金
販売者としては、代理店に販売代金を受領する代理権を付与した場合には、代理店が破産するなどして、代理店が顧客から受領した販売代金を販売者に支払うことができなくなるなど、不測の事態が生じるおそれがあります。
そのため、そのような不測の事態が生じた場合に備えて、「代理店は、本契約に係る代理店の債務の担保として、保証金を販売者に支払う」と定めておくことが考えられます。
10. 競合品の取扱い
販売者としては、代理店に販売者の商品である本商品の販売促進を積極的に行ってもらうため、競合する商品、類似する商品の取扱いを禁止するのと有利です。更に、「代理店が第三者から本商品と類似又は競合する商品の引き合いを受けた場合に、第三者に対して本商品を販売するよう努める」努力義務を定めるとより有利です。
ただし、競合品などの取扱いを禁止する条項は、独占禁止法2条9項に定める「不公正な取引方法」に該当するものを指定する、公正取引委員会の告示(一般指定。昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)11項「排他条件付取引」に該当する可能性があるため、注意する必要があります。
他方で、代理店としては、販売者の商品である本商品と競合する商品、類似する商品の取扱いを禁止されると、代理店として取り扱いことのできる商品の範囲が狭くなってしまい、不利益が大きいです。そこで、このような定めがある場合は、削除する必要があります。
11. 商標の使用許諾
⑴ 商標の使用許諾
代理店が販売代理を行うにあたって、販売者の商標を使用することが多いです。そこで、「販売者は代理店に対して、本商品について、販売者の有する商標などを使用することを許諾する」と定めるのが一般的です。
その際、商標等の使用方法について後に当事者間でトラブルとなることを防ぐため、使用許諾の対象となる商標や使用の対象となる商品、使用範囲、使用料などを明確に定めておく必要があります。
また、代理店が、本商品に他の商標を使用して販売することを防ぐため、「代理店は、本商品に関して本商標等以外の商標等を使用してはならない」と確認的に定めておく必要もあります。
⑵ 販売者が商標権を単独で保証する旨
商標が共有である場合は、通常使用権の設定には他の共有者の同意も必要となります(商標法35条、特許法73条3項)。
そのため、代理店としては、本商標等の使用許諾が無効とならないよう、「販売者は、代理店に対し、本商標等に係る商標権を販売者単独で保有していることを保証する」ことを求めた上で、商標権が共有であることが明らかになった場合には、共有者の同意取得を求めることが考えられます。
⑶ 第三者による商標権侵害があったときの対応処置
販売者としては、第三者が、販売者の商標等を侵害している、またはそのおそれがある場合、直ちに侵害者に対して警告書の送付などの必要な行為を行わなければなりません。
そのため、「代理店は、第三者が本商標等を侵害していること又はそのおそれがあることを発見した場合、直ちに販売者にその内容を報告する」と定める必要があります。また、代理店が侵害の証拠を持っている場合なども多いので、侵害を排除する際には、代理店の協力義務を定める必要があります。
他方で、代理店としては、第三者が、販売者の商標等を侵害している、またはそのおそれがある場合、商標権者である販売者が、侵害者を排除するのが合理的であるため、「販売者は、自己の責任と費用負担で当該侵害又はそのおそれの排除のために必要な行為を行う」と定める必要があります。
⑷ 第三者の権利侵害
販売者としては、販売者の商標等を使用することで、第三者の知的財産権等を侵害したとして、第三者から損害賠償請求などをなされた場合に、それが代理店の帰責性によるときにまで、責任を負わなければならないと、不利益が大きいです。
そのため、「代理店の帰責性によって、第三者から権利侵害の主張、損害賠償の請求がなされた場合は、代理店がその責任と費用でこれに対応する」と定めると安全です。
他方で、代理店としては、販売者の商標等を使用することによって、第三者の知的財産権等を侵害したとして、第三者から損害賠償請求などをなされた場合、商標権者ではない代理店が対応する必要があるとすると、負担が大きいため、「第三者から権利侵害の主張、損害賠償の請求がなされた場合は、販売者がその責任と費用でこれに対応する」と定めるのが有利です。
以上
- 販売代理店契約書について解説しました。