
はじめに
少子高齢化、核家族化、価値観の多様化等によって、頼るべき家族がいない、あるいは、家族がいても諸事情で頼ることができないため、また死後に自己の遺志を反映させたいとの考えから、死後の事務を第三者に委任する必要のある人は増加傾向にあります。とりわけ、一人で暮らしている場合には、自分の死後に、その死後の事務を誰に行ってもらうのかという問題に対処するために、第三者に対して、自分の死後の事務を委任する死後事務委任のニーズが高まっています。
ここでは、将来の不安や財産管理に関する重要な制度、死後事務委任契約について詳しく解説します。成年後見人との違いにも触れていきます。
死後事務委任契約とは何か?
死後事務委任契約とは、委任者が受任者に自己の死後の事務を生前に依頼する契約です。自己の親族と疎遠である人やそのような方がいない人は、自分が亡くなった後のことに不安を覚えることがあり、こうした不安を払拭するための方策として締結されるのが死後事務委任契約です。端的に言えば、自分が亡くなった後も、きちんと財産や手続きを管理してくれる人を指定する契約のことをいいます。つまりは、自分の死後も大切なことを任せられる存在を事前に設定しておく制度が死後事務委任契約です。ここでいう委任事務は法律行為ではない事務にあたるので、正確には準委任になります(民法656条)。
(1)契約の成立
死後事務委任契約は遺言のような要式行為ではありませんので、委任者と受任者の合意により成立します。もっとも、中心的な委任事務は委任者の死後に執行されますので、生前意思の痕跡を残すため、必ず書面によるべきです。実務上の方法としては以下の3通りがあります。
①生前の財産管理委任契約と併せて、死後事務委任契約を締結する方法
②任意後見契約の締結と併せて、公正証書にて締結する方法
③遺言書において、負担付遺贈として記載する方法
(2)委任事務の内容
死後事務の内容は多くは典型的なものであり、大きく以下のように大別されます。
①費用の支払又は金銭の受領に関する事務
医療費等の支払、家賃・地代・管理費等の支払と敷金・保証金等の受領、老人ホーム等施設利用料の支払、公共料金及び携帯電話料金など各種未払金の支払及びこれらの契約の解約又は終了に関する事務、預金の払戻し、医療保険等の保険金の請求
②公的な届出に関する事務
年金及び介護保険その他社会保険給付に関する届出、行政官庁への届出事務
③葬祭に関する事務
葬儀・納骨・供養・墓石建立・菩提寺の選定に関する事務、死亡の事実を誰に伝えるかなど
具体的には、葬儀の規模や参列者の選定、墓地の選定や散骨の有無など、生前によく協議して決めておくことが望ましいです。
そのほかにも、生活用品や動産の処分又は廃棄や相続財産管理人の申立てなど、想定される事項をあらかじめ列挙した死後事務委任目録又は死後事務に関する委任状を用意しておき、受任者と十分協議したうえで、委任する死後事務の内容を決定するのをお勧めします。
成年後見人との違いは?
成年後見人が行うことのできる死後事務は法定されているため、要件に該当すれば行うことができますが、該当しない死後事務(例えば、葬儀、家庭裁判所の許可を得ていない火葬・埋葬や預貯金の払戻し)は行うことができないので注意が必要です。
成年後見人制度も財産管理をするための制度ですが、死後事務委任契約とは異なる点があります。
任意後見人との違いは?
基本的に任意後見人は死後事務を行うことができないと考えられます。このため、任意後見人に死後事務を委ねるためには、死後事務委任契約を締結しておく必要があります。
死後事務委任契約のメリットとデメリット
死後事務委任契約のメリットは、自分の希望に沿った相続手続きや財産管理が行われることです。また、事前に契約を結んでおけば、家族や親族間でトラブルが起きる可能性を低くすることができます。加えて、契約で必要な手続きを明記しておくことで、死後に必要な手続きの漏れがなくなり、亡くなった後の不安の解消や、施設に入居していた場合や入院先への負担を軽減させることもできます。一方で、死後事務委任契約のデメリットは、専門家へ依頼した際には費用が掛かることや、自分が亡くなった後、契約内容を正確に履行してくれるか不安が残ることです。信頼できる相手を選ぶことが重要です。
まとめ
将来に備える上で、死後事務委任契約は大切な契約です。成年後見人との違い等、メリットとデメリットを理解し、自身や家族の将来のために活用しましょう。自分自身や大切な人たちの未来をきちんと守るために、死後事務委任契約の重要性を再確認しましょう。