- はじめに
・相続の際に特別寄与料が発生する制度についてご存知でしょうか?本記事では、特別寄与料制度について詳しく解説していきます。一方、共同相続人のみに認められる寄与分についても少しだけ触れていますので、興味がある人は最後まで読んでください! - 特別寄与料制度とは
・故人(被相続人)の親族のうち、相続人でない人(例えば被相続人の子の配偶者)が、被相続人を無償で療養看護するなどしていたとします。その人が、被相続人の財産の維持又は増加について、特別の寄与をしていた場合、その人を特別寄与者といい、相続の開始後に相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)を請求できる制度のことを特別寄与料制度といいます。 - 特別寄与料制度が適用される要件
・まず、特別寄与者になれる者は親族に限られます。民法では親族を「6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族」と規定しています。とても範囲が広いので、親等早見表や親等図で確認してみてください。もちろん相続人でなはく、また相続放棄によって相続権をなくしている人もなれません。
・次に、対象となる親族が、労務の提供を被相続人に対して、無償でしている必要があります。しかしながら、ごくわずかな金銭を受け取っていた場合や、簡単な食事を得たに過ぎない場合などは、対価性が否定されることもあるようです。これらのケースでは、個別具体的に判断されます。
・加えて、対象となる親族の療養介護や労務の提供と、被相続人の財産の維持、増加との間に因果関係が必要です。精神的な支えになっていただけではなく、対象となる親族が療養介護してくれたおかげで、老人ホームに入居しなくて済んだから費用がかからなかった、などの関連性が必要になります。
・また、特別の寄与といえるためには、労務の提供をした者の貢献に報いるのが相当といえる程度の顕著な貢献があったかどうか、という基準に沿って判断されます。 - 特別寄与の具体例と立証資料
・療養看護型:療養看護型で認められる一つの目安として、相続人が要介護2以上である必要があります。寄与分を主張するには、遺産分割協議の場で、自ら立証する資料を用意します。例えば、被相続人の健康状態を証明する診断書やカルテ、要介護認定結果通知書、介護ヘルパーの利用明細書、連絡ノート等。また、介護をした期間、一日のうち介護に費やした時間、介護の内容がわかるもの(介護日記等)。介護のために仕事を休んだ場合は、その日付や欠勤による減収分がわかる記録などが、重要な資料となります。
・家事従事型:農業や事業などを無償または少ない報酬で手伝った場合などは、このケースに当てはまります。家事従事型では、労務の実態がわかる資料を用意する必要があります。例えば、ご自身の確定申告書、給与明細書、預貯金通帳、日記、業務日報、タイムカード、取引先とのメール、他の従業員の証言等。そして、それによって被相続人の財産が増加したことがわかる資料も必要です。 被相続人の確定申告書、預貯金通帳等 会社の場合は税務申告書、会計帳簿等。 - 共同相続人だけに認められる通常の寄与の具体例と立証資料
・金銭等出資型:事業資金を融資していたり、不動産を貸していた場合は、金銭等出資型に当てはまります。継続性や専従性(短期間ではなく、1年以上継続的にかつ本格的に行っている)は要件とされておらず、一度の融資などでも認められます。用意する資料としては、被相続人と相続人の預貯金通帳、クレジットカードの使用履歴、振込明細、不動産売買契約書、被相続人が受け取った領収書など。
・扶養型:被相続人の生活費などを支出して、相続財産の目減りを防いだ場合は、この扶養型です。通常期待される義務の範囲を越える扶養を行っていた必要があります。例えば、定期的に仕送りしていた、同居して生活費を負担し衣食住の面倒をみていたなど。とりわけこれらの行為を一人だけ突出してしていたことも必要です。相続人全員に納得してもらうには、被相続人の預貯金通帳や、自身の預貯金通帳、カードの利用明細書、家計簿、といった被相続人の生活費を負担していたことがわかる資料等を用意しなくてはなりません。
・財産管理型:被相続人の賃貸不動産の管理などを専門家に頼らずに行っていた場合は、このケースです。ただ単に物件を清掃していただけでは認められません。専門業者に賃貸不動産の管理を依頼する必要性と、自ら行っていた管理の継続性が必要です。賃貸管理をしていた場合に用意する資料は、賃貸借契約書、口座管理の記録、賃借人とのやり取りに関する記録など。不動産の修繕費や公租公課等を負担した場合には、修繕前後の写真、預貯金通帳のコピーやカード決済の記録、領収書等、財産の推移など。 - 特別寄与料の算定方法
・特別寄与料を定めるにあたっては、明確な基準があるわけではなく、請求する特別寄与者と相続人との間で協議して決めることになります。当事者間での協議が整わない場合や、話し合いができない場合は、家庭裁判所の調停又は審判の手続を利用することができます。
・協議でお互いの主張に隔たりがあり、家庭裁判所を利用する場合での特別寄与料の算定方式は、「家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める」(民法1050条3項)を根拠にきちんとした計算方法があります。以下に実務上の計算式を説明していきます。
・療養介護型:特別寄与者が療養介護を行った日当額✕療養介護の日数✕裁量割合
日当額は、介護保険制度を基礎に要介護度に応じて決定しますが、通常は5,000円から8,000円ほどで算出します。療養介護の日数には、被相続人が老人ホームに入居、または病院に入院したり、介護サービスを利用していた日数は含めません。裁量割合に関しては、特別寄与者が介護の専門家ではないのと、もともと親族には扶養義務があるので、控えめに算出する意味あいから、通常0.7ぐらいを乗じます。
・家事従事型:特別寄与者が本来得られたはずの年収✕(1―生活費控除割合)✕寄与年数
本来得られたはずの年収は、家業と同業種、同規模の事業に従事する、同年齢層の賃金を参考に算出します。生活費控除割合とは、特別寄与者が被相続人から受けていた生活費相当額を控除するための割合のことです。端的にいえば、被相続人から特別寄与者が受けていた住居などの費用によって、節約できた生活費相当額の割合です。寄与年数は、実際に家事に従事した年数です。 - まとめ
・特別寄与料制度は、被相続人の財産を公平に分配するため、相続人以外の親族が被相続人の介護や看護などの貢献に報いることができる制度です。この制度は、個々の事情や利益の具体的な計算方法によって異なるため、適正な特別寄与料の算出や申請手続きを行うためには、専門家のアドバイスやケーススタディを参考にしてください。